2023.02.07

第三者割当増資にかかる法規制のまとめ ~会社法・金融商品取引法(金商法)・税法・取引所規則など、守るべきルールが盛り沢山~

1. 第三者割当増資には、法規制が多いので注意

 第三者割当増資とは、会社が特定の第三者に新たに株式を発行して資金を調達する手法です。M&Aの実務においては、売り手(既存株主)が資金を獲得する株式譲渡と異なり、対象会社自体に資金が流入するため、対象会社に資金需要がある取引においてよく用いられている手法です。
 この第三者割当増資は、一見すると、会社に資金が拠出されるシンプルな取引に感じられます。しかし、既存株主にとっては自らの持分(支配力)が低下する取引であり、また仮にその増資が低い価格で実施された場合には保有する株式の価値自体も下落することになるので、重大な影響のある取引といえます。
 したがって、会社法をはじめ、金融商品取引法(金商法)、税法等では、第三者割当増資について様々な厳格な規制が設けられています。 今回のコラムでは第三者割増資にかかる法規制の概要を分かりやすく、ポイントを整理してご説明いたします。第三者割当増資による資金調達やM&Aを検討している企業担当者様に是非ご確認いただければと思います。

2. 第三者割当増資の手続き

 会社法が定める第三者割当増資(自己株式の処分を含みます。)に必要な主な手続は下表のとおりです。
 公開会社(定款において、全部または一部の株式について譲渡制限がない株式を発行できると定めている株式会社)では、取締役会決議において募集事項の決定が可能です。
 一方で、非公開会社(定款において、株式を譲渡・取得する場合にはその会社の承認が必要と定められている株式会社。譲渡制限会社ともいます。)は、株主総会の特別決議が必要となります。

【第三者割当増資の主要な手続】

主要手続内容関連条文
(会社法)
募集事項の決定 募集株式の数、募集株式の払込金額またはその算定方法、現物出資の場合その内容及び価額、払込期日または払込期間、増加する資本金及び資本準備金に関する事項等を決定
※募集事項の決定は、公開会社の場合には取締役会決議、株式譲渡制限会社の場合には株主総会の特別決議が必要
199条
200条
募集事項の通知・公告 発行決議後、払込期日の2週間前までに株主に対して募集事項の通知または公告を行う。ただし、上場会社等であって期日までに金融商品取引法に定める有価証券届出書を提出していれば通知・公告に代えることができる。 201条3項4項
240条3項4項
施行規則40条
総数引受契約の締結 第三者割当の場合には、引受人との総数引受契約を締結して、募集株式の引受人を確定することが多い。この場合、引受人の申し込み・割当の手続は不要。 205条
払込 募集株式の引受人は、払込期日または払込期間内に払込金額を払込むことにより、払込日において発行会社の株主となる。 208条
209条
株主名簿への記載 発行会社は、株式を発行した場合には、法定の株主名簿記載事項を株主名簿に記載する。 121条1項
132条1項1号・3号
登記 払込期日もしくは払込期間の末日から2週間以内に、株式発行に係る登記を行う。
なお、自己株式処分の場合には、それのみを理由として変更登記を行うことはない。
915条1項2項

2.1 支配株主の異動を伴う場合

 公開会社が行う第三者割当増資が、支配株主の異動を伴う場合(募集株式を引き受ける者が当該引受けにより対象会社の50%超の議決権を有することなる場合)には、払込期日の2週間前までに既存の株主へ当該引受人に関する情報の通知が義務付けられています。
 その場合に、当該通知の日から2週間以内に議決権10%以上を有する株主が対象会社に反対の通知をしたときは、事業継続のために緊急の必要がある場合を除き、株主総会の普通決議による承認が必要となります。

2.2 資本金組入額と登録免許税

 新株を発行する場合、発行会社は払込金額を資本金に計上します。その際、払込金額の2分の1を上限として資本準備金とすることができます。資本金を増加させると、「増加資本金×7/1000」で計算される登録免許税が課税されるため、実務上は税負担を軽減する目的で、払込金額の2分の1を資本金(残り2分の1は資本準備金)と定めるケースが多く見受けられます。
 なお、自己株式を処分する場合は、新株発行と同様の経済効果がありますが、発行会社の資本金は増加しないため登録免許税は生じません。

3. 有利発行に該当する場合

 そもそも有利発行とは、新株発行を行う際に、引受人にとって特に有利な価格で発行を行うことを言います。例えば、本来の株式価値が1000円の株式を100円で発行した場合は、単純計算では引受人が900円得をしてしまいます。言い方を変えれば、既存株主が損をすることになります。そのような有利発行に対しては、いくつかの規制が設けられています。
 なお、有利発行には、「会社法上の有利発行」と「税務上の有利発行」の2つがあり、それを明確に区別する必要があります。

3.1 会社法における手続

 会社法では、募集株式の払込価額を時価より低い金額(特に有利な価額)で発行する場合、公開会社、非公開会社にかかわらず、株主総会の特別決議が必要とされています。
 特別決議を経ずに特に有利な価額で発行を行った取締役は、公正な払込金額との差額について、会社に対して損害賠償責任を負います。また、取締役と通謀して著しく不公正な払込金額で募集株式を引き受けた株主は、公正な払込金額との差額に相当する金額を支払う義務を負います。
 なお、上場会社に関しては、日本証券業協会「第三者割当増資の取扱いに関する指針」(2010年4月1日公表)に沿って、取締役会の発行決議日の直前日株価に0.9を乗じた額(または、最長6か月前から直前日までの期間の株価平均に0.9を乗じた額)以上の価額での発行であれば、有利発行に該当しないと考えられています。

3.2 税務上の取り扱い

 税務上、第三者割当増資は、対象会社においては資本等取引に該当するため、有利発行の場合においても原則として課税関係は発生しません。
 一方で、株式の引受人においては有利発行に該当する場合、時価と払込価額の差額が課税の対象となります。具体的には、引受人が個人の場合には原則として一時所得(当該引受人が役員・従業員の場合には、給与所得または退職所得)、法人の場合には受贈益課税の対象となります。有利発行に該当する場合は、引受人が個人・法人のいずれの場合においても課税が生じますのでご留意ください。
 なお、会社法上の有利発行決議を経れば、税務上の有利発行に該当しないというようなことはなく、税務上の有利発行は、会社法とは「別物」と区別して検討することが必要です。

4. 募集株式の発行等の差止め、新株発行の無効の訴え

4.1 募集株式の発行差止請求

 新株発行等に際して、株主が不利益を被るおそれがある場合には、新株発行等を事前に差止める制度が設けられています。
 具体的には、下記に該当する場合において株主が不利益を受けるおそれがあるときは、株主は、株式会社に対し株式の発行又は自己株式の処分をやめることを請求することができます。

  • 株式の発行又は自己株式の処分が法令又は定款に違反する場合
  • 株式の発行又は自己株式の処分が著しく不公正な方法により行われる場合

 当該差止請求ができるのは新株発行の効力発生前までで株式保有期間の制限はありません。なお、請求の相手先は発行会社となります。

4.2 新株発行等の無効の訴え

 上述のとおり、差止請求ができるのは新株発行の効力発生前までです。したがって、効力発生日が過ぎてしまうと差止請求はできませんが、新株発行等の無効の訴えを行うことができます。
 この場合の無効事由は会社法上規定されておらず解釈に委ねられています。判例・学説上、無効事由は限定的に解されていますが、下記の例は無効事由として認められると考えられています。

①定款で定める発行可能株式総数を超える発行
②募集にかかる公告・通知を行わない発行
③譲渡制限株式の発行において、株主総会決議に瑕疵がある場合
④支配株主の異動を伴う新株発行で株主総会決議が必要な場合に、株主総会決議が行われない場合
⑤募集株主の発行等の差止仮処分命令への違反

 新株発行等の無効の訴えは、新株発行の効力発生日から6か月以内(非公開会社の場合、1年以内)に訴えをもってのみ主張することができます。提訴権者は株主、取締役、監査役等で、会社債権者は含まれていません。
 新株発行等の無効とする判決が確定すると、その判決は第三者に対しても効力を生じます。また、無効判決の効果は、将来に向かってのみその効力を失います。

5. 金融商品取引法(金商法)上の規制

5.1 有価証券届出書と有価証券通知書

 金商法上、新たに有価証券を発行する場合、発行価額の総額が一定の基準に該当するときは、有価証券通知書または有価証券届出書の提出が必要となります。
 具体的には、①非開示会社(有価証券報告書を提出していない会社。ただし提出を免除されている会社を除く)と②開示会社(有価証券報告書を提出している会社)の区分に応じてそれぞれ次のように整理できます(下表は、関東財務局のホームページより抜粋して記載していますが、詳細は法令等でご確認ください。)。

【有価証券届出書・有価証券通知書の要否】

①非開示会社:有価証券報告書を提出していない会社(提出を免除されている会社を除く)

[*の説明]
*募集:50名以上の者を相手方として、新たに発行される有価証券の取得の申込みの勧誘を行う場合(所有することとなる者ではなく、勧誘の対象者が50名以上であることに留意)
*売出し:50名以上の者を相手方として、既に発行された有価証券の売付けの申込み又はその買付けの申込みの勧誘を行う場合

②開示会社:有価証券報告書を提出している会社

[*の説明]*募集:新たに発行される有価証券の取得の申込みの勧誘を行う場合
*売出し:既に発行された有価証券の売付けの申込み又はその買付けの申込みの勧誘を行う場合)
(注)発行者が所有する株式(自己株式)の処分は、売出しではなく募集に該当

5.2 その他の規制

①目論見書の交付
 第三者割当を行う場合、その総額が1億円以上であり、金商法上の有価証券の「募集」に該当する場合には、有価証券の発行会社は相手方に対して、有価証券届出書と同一の内容その他の事項を記載した目論見書を交付する必要があります。
②臨時報告書の提出
 第三者割当増資の結果、「親会社の異動」または「主要株主の異動」が生じる場合には、臨時報告書を財務局に提出する必要があります。

6. 取引所のルール

 金融商品取引所(証券取引所)では、既存株主の権利を著しく侵害し市場の信頼性に重大な影響を及ぼす第三者割当を未然に防止するために、上場会社に対して下記の規制を設けています。
 なお、「希薄化率」とは、増資前の議決権数に対する新株発行時に増加する議決権数の割合のことを言います。例えば、議決権株式数1万株の会社が、2,600株の普通株式の増資を行う場合は、希薄化率が26%と計算されます。

① 第三者割当に係る企業行動規範上の遵守事項
 上場会社が第三者割当を行う場合で既存株主の議決権が25%以上希薄化する場合または支配株主が異動する場合には、(a)原則として独立第三者による第三者割当の必要性及び相当性に関する意見の入手(実務的には、第三者委員会、社外取締役、社外監査役などが想定されています。)、または(b)当該割当てに係る株主総会の決議などによる株主の意思確認の手続きのいずれかを行うことが義務付けられています。

② 第三者割当に係る上場廃止基準
(ア)希薄化率が300%超の第三者割当
 上場会社が第三者割当を行う場合において、希薄化率が300%を超えるときは、株主及び投資者の利益を侵害するおそれが少ないと取引所が認める場合を除き、上場が廃止されます。
(イ)支配株主の異動を伴う第三者割当
 
第三者割当により支配株主が異動した場合において、3年以内に支配株主との取引に関する健全性が著しく毀損されていると取引所が認めるときは、上場が廃止されます。

③ 第三者割当に係る適時開示
 上場会社が第三者割当を行う場合は、以下の事項についても適時開示を行うことが義務付けられています。
(ア)割当てを受ける者の払込みに要する財産の存在について確認した内容
(イ)払込金額の算定根拠及びその具体的な内容(取引所が必要と認める場合は、払込金額が割当てを受ける者に特に有利でないことに係る適法性に関する監査役、監査等委員会又は監査委員会の意見等を含む)
(ウ)企業行動規範上の手続きを要する場合にはその内容(手続きを要しない場合にはその理由)
(エ)その他第三者割当について取引所が投資判断上重要と認める事項

7. まとめ

 第三者割当増資は、一見するとシンプルな取引に感じられますが、議決権の希薄化、支配株主の異動、有利発行など、既存株主にとって重大な影響を与えることから、会社法、金商法、税法、取引所規則等において、様々な規制・ルールが厳格に定められています。

【主に留意すべき規制等】

  • 会社法・・・新株発行等の法的手続(有利発行を含む)、募集株式の発行等の差止め・新株発行の無効の訴え等
  • 税法(法人税、所得税)・・・有利発行における課税関係
  • 金融商品取引法・・・有価証券届出書・通知書、目論見書、臨時報告書等
  • 取引所規則・・・第三者割当にかかる企業行動規範上の遵守事項等