2025.03.11

上場企業の命運を分ける「特別委員会」—最新TOB事例9選から見る実態

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1. はじめに

 最近、上場企業を対象としたM&Aの報道を目にする機会が増えています。その中で「特別委員会」という言葉が頻繁に登場しますが、この仕組みが何を意味するものか、しっかりと理解していない人も多いのではないでしょうか?
 そもそも「特別委員会」とは何でしょうか?特別委員会は、企業買収が行われる際に、公正性を確保するために設置される重要な組織です。しかし、「取締役会や監査役会とどう違うのか?」「企業不祥事の調査でよく耳にする『第三者委員会』とは何が違うのか?」といった疑問を持つ方も少なくありません。
 実際、特別委員会の判断次第で、M&Aの行方が大きく左右されるケースもあります。特に、敵対的買収やMBO(経営陣による買収)、非公開化を伴うTOB(公開買付け)などでは、企業価値や少数株主の利益を守る上で特別委員会の役割が極めて重要です。
 本稿では、近年の著名なTOB事例をもとに、特別委員会がどのように設置・運営され、M&Aの判断にどう関わったのかを紐解いていきます。特別委員会のリアルな実態を知ることで、企業買収の舞台裏がより鮮明に見えてくるはずです。

2. 特別委員会とは何か

 昨今、上場企業を対象とした買収は、公開買付け(TOB)によるものを中心に活発化しています。
 買収の類型としては、第三者によるもののほか、経営者による企業買収(MBO)があります。このうち、特に、第三者による買収事例には、事前に対象企業の経営陣の同意がないまま、敵対的にTOBが行われるケースも見られるようになりました。また、TOBという手段で、親会社による上場子会社の完全子会社化が行われることもあります。
 このような支配株主との取引やMBOなどの取引は、一般に少数株主(一般株主)が不利益を被る可能性があるとされることから、実務的には、少数株主にとって公正な取引となるよう様々な措置(公正性担保措置)を上場企業において講じます。
 その中でも中核的な役割を担っているのが、M&A取引の検討に特化した「特別委員会」の設置・運営です。特別委員会は、一般に、取締役会の諮問機関として任意に設置される合議体であり、上場企業の企業価値の向上及び一般株主の利益を図る立場から、M&Aの是非や取引条件の妥当性、手続の公正性について検討判断します。

2.1 「公正M&A指針」における特別委員会の意義・役割・運営上の留意点

 特別委員会という呼称が定着し、その役割が明確化した契機として、2019年6月28日の経済産業省による「公正なM&Aの在り方に関する指針」(以下「公正M&A指針」といいます。)の公表がありました。
 公正M&A指針は、同じく経済産業省が2007年9月に策定した「企業価値の向上及び公正な手続確保のための経営者による企業買収(MBO)に関する指針」(以下「MBO指針」といいます。)を改訂したものです。MBO指針公表後の実務や判例の発展を踏まえるだけでなく、その対象取引をMBOのみならず支配株主による従属会社の買収まで拡大しました。ここでは、特別委員会に関する公正M&A指針の記載を紹介します。

  • 呼称: かつて「第三者委員会」と呼ばれていましたが、公正M&A指針の公表をきっかけに「特別委員会」と呼ばれるようになりました。公正M&A指針において、「基本的には、買収者及び対象会社・一般株主に対して中立の第三者的立場に立つのではなく、対象会社及び一般株主の利益を図る立場に立つという点において、例えば企業等に対する中立性が求められる企業等不祥事における第三者委員会とはその位置づけを異にする点に留意する必要がある」とされたことによります(公正M&A指針脚注27)。
  • 機能: 特別委員会は、構造的な利益相反の問題が対象会社の取締役会の独立性に影響を与え、取引条件の形成過程において企業価値の向上および一般株主利益の確保の観点が適切に反映されないおそれがある場合において、本来取締役会に期待される役割を補完し、または代替する独立した主体として任意に設置される合議体です。
  • 役割: 上記の機能を果たすため、特別委員会は、①対象会社の企業価値の向上に資するか否かの観点から、M&Aの是非について検討・判断するとともに、②一般株主の利益を図る観点から、(i)取引条件の妥当性および(ii)手続の公正性について検討・判断する役割を担います。
  • 公正性担保措置としての意義: 「特別委員会は、適切に運用することにより、構造的な利益相反の問題と情報の非対称性の問題への対応に資するものであり、M&Aの公正性を担保する上で有効性の高い公正性担保措置である」とされており、特に公正M&A指針では、特別委員会は、複数ある公正性担保措置の中でも中核的な役割を有する仕組みと位置づけています。
  • 設置時期: 実効性を確保するため、「対象会社が買収者から買収提案を受けた場合には、可及的速やかに、特別委員会を設置することが望ましい」とされています。
  • 委員構成: ①買収者からの独立性、②当該M&Aの成否からの独立性が求められるべきとされています。属性・専門性の観点からは、社外取締役が最も適任とされ、これに次いで社外監査役、社外有識者の選任も考えられるとされています。
  • 特別委員会の設置・委員選定のプロセス: 特別委員会の設置の判断、権限と職責の設定、委員の選定や報酬の決定については、独立社外取締役や独立社外監査役が主体的に関与することが望ましい、とされています。
  • 買収者との取引条件の交渉過程の関与: 特別委員会が対象会社と買収者との間の買収対価等の取引条件に関する交渉過程に実質的に関与することが望ましいものとされています。その方法としては、①特別委員会が自ら直接交渉を行うこと、または②交渉自体は対象会社が行うが、特別委員会は、事前に交渉の方針を確認し、適時に状況報告を受け、重要な局面で意見を述べ、指示や要請を行うこと等が考えられます。
  • アドバイザー等: 特別委員会の委員自身が、手続の公正性や企業価値評価の専門性を十分に有していない場合、特別委員会が信頼して専門的助言を求めることができる財務アドバイザー・第三者評価機関や法務アドバイザーが存在していることが望ましいとされています。具体的には、特別委員会が①自らのアドバイザー等を選任することや、②専門性・独立性に問題がない場合、対象会社の取締役会が選任したアドバイザー等を利用することも考えられます。
  • 情報の取得:特別委員会が、一般株主に代わり、非公開情報も含めて重要な情報を入手し、これを踏まえて検討・判断を行い、重要な情報を十分に踏まえた上で、M&Aの是非や取引条件の妥当性についての検討・判断が行われる状況を確保することが望ましいとされています。
  • 報酬: 社外役員が特別委員となる場合、通常の職務に追加して相当の時間と労力を特別委員会の職務に投入することになります。このため、元々の役員報酬とは別に、特別委員としての職務に応じた報酬を支払うべきとされています。
  • 取締役会における特別委員会の判断の取扱い: 特別委員会は会社法上の機関ではない任意の機関である以上、M&Aへの賛否等の意思決定は、最終的には取締役会が行います。その際、取締役会は、特別委員会の判断を最大限尊重して意思決定することが望ましいとされています。

2.2 「企業買収における行動指針」と特別委員会  

 「企業買収における行動指針」(以下「行動指針」といいます。)とは、上場会社の経営支配権を取得する買収を巡る当事者の行動の在り方の原則論及びベストプラクティスを提示することを目的として、経済産業省が2023年8月に策定したものです。
 「行動指針」は、主にMBOや支配株主による従属会社の買収を対象とした「公正M&A指針」とは異なり、「買収者が上場会社の株式を取得することでその支配権を取得する行為」を対象とします。特に、上場会社の経営陣からの要請や打診が行われていない中での買収提案(同意なき買収提案)が行われる場合の対象会社の在り方が言及されています。
 ここで「行動指針」は、第1の原則として「企業価値・株主共同の利益の原則」を挙げています。この原則によれば、買収提案を受けた場合に、対象会社の取締役が、会社の企業価値を向上させるか否かの観点から買収の是非を判断することに加えて、株主が享受すべき利益が確保される取引条件で買収が行われることを目指して合理的な努力が行われるべきです。具体性・目的の正当性・実現可能性のある「真摯な買収提案」が行われた場合には、対象会社の取締役会は「真摯な検討」をすることが必要です。
 この際、社外取締役が重要な役割を果たすとともに、個別の状況に応じて「特別委員会の設置」等の公正性担保措置を講じることが考えられます。すなわち、「企業買収」場面における利益相反が、(公正M&A指針が対象とする)「MBO等」における利益相反と比較してどの程度深刻かを意識しながら、特別委員会の設置・運営を含む公正性担保措置の程度を個別に判断していくこととなります。例えば、「企業買収」の場面で、経営陣・取締役の留任や従業員の処遇等を巡る利益が株主共同の利益よりも優先される懸念がある場合、「MBO等」の場合と同様に特別委員会の設置が求められる可能性があります。
 行動指針では、特に以下のような場合に、特別委員会の設置が有用であるとしています(行動指針3.3)。

  • キャッシュ・アウトの提案であることから、取引条件の適正さが株主利益にとってとりわけ重要であると考えられる場合
  • 買収への対応方針・対抗措置を用いようとする場合
  • その他、市場における説明責任が高いと考えられる場合(例えば、複数の公知の買収提案がある場合等)

 近年の「同意なき買収」の事例では、公正M&A指針のみならず行動指針における特別委員会についての言及も踏まえて、対象会社において特別委員会の設置・運営が行われたと考えられます。
 以降、本コラム執筆時点における直近の著名なM&Aの事例を取り上げ、具体的に、対象会社においてどのように特別委員会が設置・運営されたのか見ていきます。
 なお、ここまでご紹介した各種指針における特別委員会の言及内容について、下表に要約しました。

公表年月    略称     正式名称対象取引特別委員会(MBO指針では「第三者委員会」)に関する主要な言及 
2007年9月MBO指針企業価値の向上及び公正な手続確保のための経営者による企業買収(MBO)に関する指針MBO・不当に恣意的な判断となることを回避する工夫の一つとして、「社外役員」又は「独立した第三者委員会等」へ諮問し判断を尊重することが考えられる。
2019年6月公正M&A指針
(MBO指針の改訂版)
公正なM&Aの在り方に関する指針MBO及び支配株主による従属会社の買収・特別委員会を設置することの意義は特に大きい
・いかなる公正性担保措置をどの程度講じるべきかの検討を行う役割を担い、手続の公正性を確保する上での基点として位置付けられる
・特別委員会の委員として社外取締役が最も適任
・中立の第三者的立場ではなく、対象会社及び一般株主の利益を図る立場に立つため、企業等不祥事における「第三者委員会」とは異なる
2023年8月行動指針企業買収における行動指針上場会社の経営支配権を取得する買収取引・取締役会の過半数が社外取締役でない会社では、独立した特別委員会を設置することが有益
・個々の事案ごとに、利益相反の程度、取締役会の独立性を補完する必要性、市場における説明の必要性の高さ等に応じて、設置の要否を検討すべき

3. 著名なTOB事例における特別委員会の運営

 ここでは、各種メディアでもよく取り上げられた著名な買収提案(9件)について、具体的にどのように特別委員会が運営されていたのか紹介します。買収案件は2022年以降に公となったものを対象としています。買収提案の内容は千差万別ですが、公正M&A指針及び行動指針が整備されたことにより、特別委員会の運営には共通した傾向が見て取れます。

3.1 事例の概要

 まずは本コラムでご紹介する対象事例(計9事例)の概要をご説明します。なお、富士ソフト(事例No1)及びセブン&アイ・ホールディングス(事例No2)は、本コラム執筆時点(2025年3月)で進行中の案件であり、当該時点までの状況を記載しています。

No案件(対象会社)時期
(TOB公表~成立)
非公開化MBO同意なき買収提案対抗提案の有無概要
1富士ソフト2024年8月
~2025年2月
・富士ソフトを巡るKKRとベインキャピタルの争い
・24年8月にKKRが独占交渉権獲得後にTOB計画を公表
・同年9月にベインがTOBの提案予告。一方、KKRは自社による第1回TOBを開始
・同年11月にKKRの第1回TOBが成立し約34%保有。KKRは第2回TOBでTOB価格を引き上げた。以降、KKRとベイン双方がTOB価格を引き上げ
・25年2月にベインがTOBからの撤退を表明、KKRによる第2回TOBが成立
2セブン&アイ・ホールディングス(2024年8月~)
※現時点(2025年3月)ではTOBに至らず
△(進行中)・アリマンタシォン・クシュタールによる初期的な買収提案を受けて、2024年8月に独立社外取締役のみで構成する特別委員会を組成
・特別委員会は、本提案が実効性の伴う協議を行うだけの根拠・材料を提示していないとの考えを示した。
・同年9月に特別委員会からの全会一致の推奨に基づき、取締役会は、双方のアドバイザー同士の議論や情報共有を目的としたNDAの締結を拒否
・同年11月に創業家の資産管理会社(伊藤興業)から法的拘束力のない非公表の買収提案を受領したことを公表
・翌25年2月に伊藤興業から資金調達の目途が立たなくなったとの連絡を受領したことを公表し、同社からは検討しうる提案がなされていないとの考えを示した。
3C&Fロジホールディングス2024年3月~7月・C&Fを対象とするAZ-COM丸和ホールディングスとSGホールディングスの争い
・当初、AZ-COMはC&Fに対して「同意なき買収」提案。公開買付期間中に、SGがホワイトナイトとして対抗提案を行った。
・結果として、SGが競り勝ち同社のTOBが成立。C&Fは同社の完全子会社(上場廃止)となった。
4ローランドDG2024年2月~5月・24年2月にMBO目的でSPCがTOBを開始。ローランドDG取締役会は同TOBに賛同意見を表明し応募推奨した。
・同年3月にブラザー工業は対抗提案を公表(TOB開始予告)。取締役会は応募推奨を撤回。その後、SPCはTOB価格を切り上げた。
・同年5月にSPCのTOBが成立。スクイーズアウト(株式併合)を経て、ローランドDGはSPCの完全子会社(上場廃止)となった。
5ローソン2024年2月~5月・KDDIによるローソン株式へのTOB。三菱商事及びKDDIの折半出資とし、ローソンを非公開化することが企図された。
・ローソン取締役会は、同TOBに賛同意見を表明し応募推奨した。同年5月にTOBが成立し、スクイーズアウト(株式併合)を経て同年7月にローソン株式は上場廃止となった。
6ベネフィット・ワン2023年11月
~2024年3月
・エムスリーの買収提案に第一生命ホールディングスが対抗。最終的に第一生命ホールディングスが競り勝った案件。
・23年11月に、エムスリーは同社へのTOB(上限55%)を開始。同社取締役会は、同TOBに賛同意見を表明するが応募は株主の判断に委ねた。
・同年12月に、第一生命ホールディングスが上限なしTOBの対抗提案を公表。翌24年2月に第一生命ホールディングスがTOBを開始。
・その際、対象会社の取締役会は意見を転換。第一生命ホールディングスTOBへの賛同及び応募推奨の意見表明を行った。
・結局、24年3月にエムスリーTOBが不成立となり、同月第一生命ホールディングスTOBが成立した。
・その後、ベネフィット・ワンは第一生命ホールディングスの完全子会社(上場廃止)となった。
7TAKISAWA2023年7月~11月・ニデックによるTAKISAWAへの同意なき買収案件。
・23年7月、TAKISAWA経営陣との事前の了解なしに、ニデックによりTOBが開始された。
・行動指針ドラフトが公表されて間もない時期の「同意なき買収提案」事例として、特にTAKISAWA取締役会の反応が注目されたが、同年9月に、同取締役会はTOBへ賛同意見を表明し応募推奨した。
・同年11月にTOBは成立し、最終的には、スクイーズアウト(株式併合)を経て、24年2月にTAKISAWA株式は上場廃止(TAKISAWAはニデックの完全子会社)となった。
8シダックス2022年8月
~2024年1月
・22年8月にオイシックス・ラ・大地がTOBを開始。シダックス取締役会が同年9月に同TOBに反対意見を表明し紛糾。またオイシックスのTOB開始前にコロワイドから買収提案があったことが判明し混乱が起きたが、コロワイドは状況を鑑みて買収提案を撤回した。
・最終的にはオイシックス以外の企業との連携可能性を調査する(フード協業)特別委員会を設置するなどで、同年10月にシダックス取締役会は意見を中立に変更、22年10月にはオイシックスのTOBが成立し持分法適用会社となった。
・その後、23年11月に、志田ホールディングス(創業家)によるMBOとそれに続く同社のオイシックスに対する第三者割当増資により、24年1月にシダックスはオイシックスの子会社化となる。
・24年3月には、株式併合によりシダックスは志田ホールディングス(オイシックス子会社)の完全子会社となり、シダックス株式は上場廃止となった。
9東洋建設2022年3月~
(中止)
・22年1月に、インフロニア・ホールディングスによる東洋建設への買収(TOB)提案が行われた。東洋建設の取締役会は、同年3月に本TOBに賛同意見を表明し応募推奨した。
・しかし、同年4月には、本TOB開始後に筆頭株主となったYamauchi-No.10 Family Office(任天堂創業家の資産管理会社。以下「YFO」という。)らからの対抗提案を受けた。
・東洋建設の取締役会は同月に応募推奨の意見を撤回、TOBには賛同するが応募は株主の判断に委ねる旨の決議をした。
・結果として本TOBは不成立となり、インフロニア・ホールディングスは東洋建設の完全子会社化検討を中止した。

3.2 特別委員会の人員数・属性・設置のタイミング

 次に、各事例における特別委員会の人員数、特別委員の属性及び特別委員会の組成タイミングは、以下の通りです。
 全てのケースで社外取締役を特別委員としていることが読み取れます。また、特別委員会の人員数は3名以上で、一部の例外を除き、買収提案後おおよそ2週間程度で特別委員会が設置されていることが分かります。

特別委員会の人員数と属性

No 案件(対象会社)      人員数  属性      設置のタイミング   補足

1

富士ソフト

6名独立社外取締役のみ2023年8月下旬に非公開化に関する提案を受け、同年9月12日に設置後に他独立社外取締役1名がオブザーバー参加

2

セブン&アイ・ホールディングス

複数名

独立社外取締役のみ(詳細不明)初期的買収提案を受けていること及び特別委員会を組成していることは同日公表(24/8/19)

3

C&Fロジホールディングス6名独立社外取締役 5名
外部有識者(公認会計士)1名
2024年3月21日に同意なき買収提案を受け、同年4月1日に設置

4

ローランドDG3名独立社外取締役のみ2023年12月21日にMBO提案を受領直後(同日)に設置他社から買収提案を受領したのは2023年9月1日。その後、入札プロセスを開始するが、DDを経て最終提案書受領する時までは特別委員会を組成しなかった。

5

ローソン3名独立社外取締役のみ2023年9月1日にKDDIより初期的提案書を受けたことを契機に同年9月13日に設置

6

ベネフィット・ワン3名社外取締役(監査等委員)のみ2023年8月24日にエムスリーより意向表明書を受領し、同年8月31日に設置

7TAKISAWA5名独立社外取締役2023年7月13日にニデックから意向表明書が提出されたことを受けて、同年7月27日設置

8-1

シダックス
(オイシックスTOB後)

3

社外取締役1名
外部有識者(弁護士及び公認会計士)1名
2022年10月7日に、オイシックス及び創業家との間の合意に基づき、フード関連事業の協業の公正な検討を行う枠組みが整備されたことに伴い、その一環として同年11月22日に設置(フード協業特別委員会)2022年9月5日に取締役会がTOB反対、その後同年10月7日の中立意見への変更に至るまで特別委員会は設置されなかった。

8-2

シダックス
(志田ホールディングスMBO時)
3名社外取締役2名
外部有識者(公認会計士・税理士)1名
2023年8月18日に志田ホールディングス及びオイシックスから意向表明書が提出されたことを受けて、同年8月30日に設置上記のフード協業特別委員会は2023年4月に活動を停止していた。今回の志田ホールディングス(シダックス非公開化)提案にあたり、同委員会を兼ねるものとして改めて設置し委員も再選任された。

9

東洋建設3名独立社外取締役2名
社外有識者(弁護士)1名
2022年1月26日にインフロニア・ホールディングスに初期的な提案を受けて、同年2月24日に設置

3.3 特別委員会の開催期間・回数・時間数

 ここでは、特別委員会が開催された後の運営の実態について、開催期間・回数・時間数をまとめています。
 これらは、各案件の特殊事情や対抗提案の有無などにより、案件ごとに大きくバラツキが生じています。
 なお、開催期間等は主に該当TOBの意見表明プレスリリース等で確認された範囲の情報であり、通常、特別委員会の設置から解散までの期間とは一致しないことにご留意ください。

特別委員会の開催期間・開催回数・時間数

No案件(対象会社)開催期間開催回数   時間数   

1

富士ソフト2024/10/15~12/17
(上記は開催回数が開示情報から把握できる期間を記載したもの。実際の設置日は2023/9/12)
特別委員会:12回
執行部との連絡会議:6回(左記期間前後の開催回数は不明)
不明

2

セブン&ア・ホールディングス詳細不明。但し、24/8/15には特別委員会を設置し、9/6には取締役会に意見答申したとみられる。複数回(詳細不明)
不明

3

C&Fロジホールディングス2024/4/3~5/3112回約16時間

4

ローランドDG(対抗提案前)
2023/12/25~2024/2/9
(対抗提案後)
不明
(対抗提案前)
12回
(対抗提案後)
不明
不明

5

ローソン2023/9/13~2024/2/522回正味22時間超

6

ベネフィット・ワン(エムスリーTOB意見表明まで)
2023/8/31~11/14
(第一生命ホールディングスTOB意見表明まで)
2023/12/8~2024/2/8
(エムスリーTOB意見表明まで)
8回
(第一生命ホールディングスTOB意見表明まで)
13回
(エムスリーTOB意見表明まで)
不明
(第一生命ホールディングスTOB意見表明まで)
約15時間
7TAKISAWA2023/7/31~9/128回約13.5時間

8

シダックス
(志田ホールディングスMBO)
2023/8/30~11/1013回約14時間
9洋建設2024/2/24~4/2813回不明

3.4 取締役会の諮問事項

 次に、案件別に、取締役会から特別委員会への諮問事項を要約しています。
 諮問事項には、対抗提案の有無にかかわらず各案件で共通する内容が多いです。具体的には、買収提案への賛否及び応募推奨の可否に関する勧告(TOBへどのような意見を表明すべきか)、手続の公正性が担保されているか、少数株主の利益となるのか、企業価値の向上に資するか、取引条件が妥当か、対抗提案に対する意見、等が諮問事項として列挙されています。

取締役会から特別委員会への諮問事項

No案件(対象会社)諮問事項(要約)

1

富士ソフト

・本取引の実施を勧告するか(本TOBへの賛同及び応募推奨の是非に係る勧告を含む)
・本取引が少数株主に不利益でないか

なお、諮問事項の検討にあたり、以下の観点が特に重視された。
・企業価値の向上に資するかどうか
・取引条件の妥当性(経済的合理性)
・少数株主に対する公平性
・取引プロセスの公正性

2

セブン&アイ・ホールディングス


(詳細不明)

3

C&Fロジホールディングス

・取締役会がAZ-COM丸和ホールディングスTOBにどのような意見を表明すべきか
・AZ-COM丸和ホールディングスTOBが少数株主に不利益でないか
・対抗提案がなされた場合、取締役会はどのような意見を表明すべきか及び当該対抗提案が少数株主に不利益でないか

4

ローランドDG

・本TOBを含む本取引の目的が合理的と認められるか(本取引が企業価値向上に資するかを含む。)
・本TOBを含む本取引に係る手続の公正性が確保されているか
・本取引の条件の妥当性が確保されているか
・本取引に関する決定(本TOBに関する意見表明の決定を含む。)が少数株主に不利益でないか
・取締役会が本TOBに賛同意見を表明し株主に応募推奨することの是非

5

ローソン

・本取引の目的の正当性・合理性を有するか(本取引が企業価値向上に資するかを含む。)
・本取引の条件(本公開買付価格を含む。)の公正性・妥当性が確保されているか
・本取引において、公正な手続を通じた株主の利益へ十分配慮されているか
・本TOBへの賛同及び応募推奨の意見表明を取締役会が行うことが適切であるか
・本取引を行うことが、少数株主の不利益でないか

6

ベネフィット・ワン

・エムスリーTOBについての賛同及び株主への応募推奨の可否
・取締役会における本取引についての決定が、少数株主に不利益でないか
・エムスリーTOB及び第一生命ホールディングスTOBに関する意見(対抗提案後)
7

TAKISAWA

・取締役会が本TOBに対してどのような意見を表明すべきか
・本取引は少数株主にとって不利益でないか
・真摯な対抗提案が第三者よりなされた場合、取締役会がどのような意見を表明すべきか、及び当該対抗提案は少数株主にとって不利益でないか

8

シダックス(MBO時)

・取締役会において本取引を承認するべきか否か(TOBへの賛同及び株主への応募推奨可否を含む。)
・取締役会における本取引についての決定が、少数株主に不利益なものでないか

9

東洋建設

・本取引の目的の正当性・合理性
・本取引に係る手続きの公正性(株主の利益への十分な配慮がなされているか)
・本取引に係る取引条件の公正性・妥当性の観点から、本取引は少数株主に不利益でないか
・本TOBへの賛同意見を維持する一方、応募推奨意見を撤回し中立の立場を取締役会がとった上で、本取引を実施することが少数株主に不利益でないか(YFO対抗提案を受領後の追加諮問事項)

3.5 特別委員会の職務遂行状況

 特別委員会の具体的な職務遂行状況は以下の通りです。
 各案件で大よそ共通する項目には、対象会社のファイナンシャル・アドバイザー(FA)及びリーガル・アドバイザー(LA)の承認、公開買付者らへの質問及び面談、公開買付者らに対する協議交渉状況の報告を受けた上で方針の意見申述、事業計画の確認・承認、株価算定に関する前提条件等の確認、意見表明プレスリリースの確認などがあります。
 FAのほかに算定機関を承認するケースや、特別委員会独自のFA及びLAを選任するケースも見られます。
 なお、セブン&アイ・ホールディングスの場合は、TOB又はその開始予告に対する意見表明まで至っていないこともあり、特別委員会の活動の詳細については不明です。

特別委員会の職務遂行状況

No案件(対象会社)特別委員会の職務遂行状況(要約)
1富士ソフト(ベインの対抗提案前)
・3Dインベストメントが受領した(PEファンドの)複数提案に対して真摯な検討を行うよう勧告
・新中期経営計画(上場子会社4社の非上場化含む)の原案検証
・PEファンドとの面談・質疑応答・価格引き上げ交渉
・特別委員会が独自に選任したアドバイザーの独立性確認
・公正性担保措置の内容の承認
・対象会社FA及び特別委員会FAへ株価算定の前提(事業計画その他条件等)に関する質疑応答
・特別委員会FAからフェアネス・オピニオンの入手
・定例情報連絡会議を開催し対象会社に必要事項を指示
(ベインの対抗提案後)
・対象会社執行部との間で連絡会議を開催し必要事項を指示
・特別委員会起用アドバザーの助言を受けつつ慎重に議論
2セブン&アイ・ホールディングス・FA及びLAの助言を受けつつ本提案についてレビューを実施
3C&Fロジホールディングス・FA、第三者算定機関、LAの承認
・本取引が企業価値の向上に資するか否かの検討
・本取引の取引条件の妥当性の検討
・本取引の検討手続の公正性の検討
・AZ-COM丸和ホールディングスTOBについての検討
4ローランドDG(ブラザー工業の対抗提案前)
・FA、第三者算定機関、及びLA選任の承認
・本取引の提案経緯、目的及び事業環境に関する質疑応答
・本事業計画の内容及び策定手続並びに経営課題等に関する質疑応答
・公開買付者に対する質疑応答(文書・インタビュー)
・ 第三者算定機関の株価算定に関する前提等の合理性の確認
・公開買付者との協議・交渉の報告をもとにした同方針に関する意見申述 等
(ブラザー工業の対抗提案後)
・特別委員会から経営者側に対してMBOの要件変更の意向を問う書簡を送付
・その後、独自のLAを選任し、経営者側及びブラザー工業と複数回面談
5ローソン・FA、第三者算定機関、及びLA選任の承認
・事業計画の承認
・公開買付者(KDDI)に対する質問、インタビュー形式による質疑応答
・第三者算定機関の株価算定に関する前提等の合理性の確認
・公開買付者との協議・交渉の報告をもとにした同方針に関する意見申述 等
6ベネフィット・ワン・FA及びLAの承認
・ベネフィット・ワン社内の検討体制の確認・承認
・各資料等の検討
・パソナグループ、エムスリー及びベネフィット・ワンに対する面談結果の検討
・第一生命ホールディングスに対する質問書を通じた質疑応答
・第一生命ホールディングス、エムスリー及びパソナグループとベネフィット・ワンとの協議・交渉の報告をもとにした同方針に関する意見申述 等
7TAKISAWA・FA、第三者算定機関、LAの承認
・事業計画の承認
・対象会社内の検討体制の確認・承認
・LAの助言を踏まえた公正性担保措置の検討
・公開買付者(ニデック)に対する当社の質問及び回答確認
・特別委員全員による公開買付者との直接面談
・第三者算定機関の株価算定に関する前提等の合理性の確認
・公開買付者との協議・交渉の報告をもとにした同方針に関する意見申述 等
8シダックス(MBO時)・FA、第三者算定機関、LAの承認
・対象会社役職員への質疑応答
・公開買付者及びオイシックスの役員への質疑応答
・上記結果を踏まえた企業価値向上効果の内容及び実現可能性の検証
・事業計画の策定過程及び内容の確認
・第三者算定機関の株価算定に関する前提等の合理性の確認
・公開買付価格を含む本取引の条件に関して公開買付者及びオイシックスとの交渉
公表予定の本TOBに係るプレスリリースのドラフトの内容の確認等 
9東洋建設・FA、第三者算定機関、及びLAの承認
・特別委員会独自のFA及び第三者算定機関の選任
FA及びLAの助言を踏まえた公正性担保措置の検討
公開買付者に対し、本取引の意義・目的及び本取引後の運営方針等について意見聴取及び質疑応答
事業計画について、内容、重要な前提条件、及び作成経緯等の合理性の確認
・FA及び第三者算定機関の株価算定に関する前提等の合理性の確認
・第三者算定機関によるフェアネス・オピニオンの発行手続の確認及び同オピニオンの受領
公開買付者との交渉方針の審議及び決定
・公開買付者との協議・交渉の報告をもとにした同方針に関する意見陳述
・意見表明プレスリリース及び意見表明報告書の内容確認

3.6 特別委員会の答申内容

 取締役会からの諮問に対して、最終的には特別委員会から答申結果が報告されますが、ここでは、各案件における答申結果の概要を見てみましょう。
 注目すべきは、以下の全ての事例において、対象会社の取締役会は特別委員会の答申内容を尊重し、同内容の意見表明を行っていることです。特別委員会で形成された意見は取締役会の意見となると言ってよいでしょう。
 なお、買収がTOBにより行われる場合、通常、TOBに係る意見表明報告書やプレスリリースで特別委員会の答申内容が開示されますが、対抗提案を受領した場合には、取締役会の要請を受けて追加の答申が行われる場合があります。

各案件における特別委員会の答申内容

No案件(対象会社)特別委員会の答申内容概要取締役会は答申内容を尊重したか

1

富士ソフト

・2024年8月:KKRのTOB開始予定について賛同及び応募推奨の意見表明を勧告
・同年9月:KKR第1回TOBについて上記見解を維持
・同年10月:上記見解を維持。同時にベイン提案の帰趨を踏まえてKKR第1回TOBに応募せず第2回TOBへ応募することも合理的である旨を答申
・同年11月:KKR第2回TOBに賛同及び応募推奨の意見表明を勧告する一方、ベイン提案には反対の意見表明を勧告
・ 同年12月:ベイン提案では特別決議事項にデッドロックが生じる恐れがあること及びKKR提案の方が早期に現金化できること等を理由に、上記見解を維持。

2

セブン&アイ・ホールディングス

・以下の理由により、本提案が実効性の伴う協議を行うだけの根拠・材料を提示していない。
‣本提案は機会主義的なものであること
‣対象会社が既に実行している或いは今後実行を検討している追加的な施策による潜在的な株式価値の短中期的な実現について、著しく過小評価していること

3

C&Fロジホールディングス

・SGホールディングスTOBには賛同意見を表明し応募推奨を決議すべき。少数株主に不利益でない。
・AZ-COM丸和ホールディングスTOBには反対意見を表明し応募しないよう依頼すべき。同TOBは少数株主に不利益である。

4

ローランドDG

(当初MBO提案に関する意見表明時)
・本取引の目的が合理的であり、本取引に係る手続きの公平性及び条件の妥当性が確保されている。
・株主利益を十分配慮していることから、賛同し株主に応募推奨する旨の意見表明は適切。
(ブラザー工業の対抗提案に関する意見表明時)
・ディスシナジーの懸念を払拭できないためMBO(TOB)への賛同は維持
・ただし、対抗提案ではMBO提案を上回る価格が提示されたため応募推奨撤回を答申
(MBOの価格引き上げ等提案に関する意見表明時)
・改めて賛同意見および応募推奨を答申

5

ローソン

・本取引の目的が正当かつ合理的である。
・本取引の条件の公正性・妥当性が確保されている。
・株主利益へ十分な配慮がされている。
・株主に応募推奨する旨の意見表明は適切である。

6

ベネフィット・ワン

(エムスリーTOBに係る意見表明時)
・同TOBに賛同し応募を株主判断にゆだねること等は、少数株主に不利益ではない。
(第一生命ホールディングスTOBに係る意見表明時)
・同TOBに賛同し応募推奨すべき。
・エムスリーTOBへの意見を変更し賛否及び応募推奨の有無を留保することは、少数株主に不利益でない。

7

TAKISAWA

・本TOBに賛同し株主に応募推奨する旨の意見を表明すべき。
・上記の決議及び本TOB後のスクイーズアウト手続に関する承認等は少数株主に不利益ではない。

8

シダックス(MBO時)

・本TOB(MBO)に賛同意見の表明及び株主への応募推奨を決議すべき。
・上記の決議及び本TOB後のスクイーズアウト手続は少数株主に不利益ではない。

9

東洋建設

(YFO対抗提案受領前)
・本取引は対象会社の企業価値に資する。その目的は正当かつ合理的
・本取引に係る手続きの公正性は認められ、少数株主の利益へ十分な配慮がある。
・本取引に係る取引条件の公正性及び妥当性は確保されている。本TOBに賛同意見を表明し株主に応募推奨すること等は少数株主に不利益ではない。
(YFO対抗提案受領後)
・本TOBへの賛同を維持することは不合理ではない。
・本TOBの応募推奨を撤回し中立の立場を取ることは、少数株主に不利益ではない。

4. まとめ

  • 特別委員会は、取締役会の諮問機関として任意に設置される合議体である。
  • 特別委員会は、上場企業の企業価値の向上及び一般株主の利益を図る立場から、M&Aの是非や取引条件の妥当性、手続の公正性について検討判断する。
  • 「公正なM&Aの在り方に関する指針」(2019年6月)により、一般株主の利益を図る立場が明確になり、特別委員会という呼称が定着した。MBO等の場面における従来の「第三者委員会」は「特別委員会」になった。
  • 「企業買収における行動指針」(2023年8月)でも特別委員会の役割が言及されている。MBO等に該当しなくとも、同意なき買収案件やキャッシュアウト(非公開化)を前提とする買収案件であれば、特別委員会の設置が一般的になった。
  • 本コラムで取り上げた直近の著名なTOB事例(9件)から、特別委員会の運営実態として以下の内容が読み取れる。
    人員数・属性・設置のタイミング:全ての事例で社外取締役が特別委員に任用されており、その人員数は3名以上である。社外取締役のみで特別委員会を組成する例も多い。また、買収提案を受領してから2週間程度で設置されることが多い。
    開催期間・回数: 対抗提案の有無や案件固有の事情に左右され案件間のばらつきは大きい。検討期間が比較的短期の案件でも、特別委員会は約2か月間で10回程度開催されている。
    諮問事項: 案件間の共通項は多い。買収提案への賛否及び応募推奨の可否に関する勧告、手続の公正性、少数株主の利益、企業価値の向上、取引条件の妥当性、対抗提案に対する意見等について、取締役会から特別委員会へ諮問されている。
    遂行する職務: 案件間の共通項は多い。FA及びLAの承認、公開買付者らへの質問及び面談、公開買付者らとの協議交渉方針への意見、事業計画の承認、株価算定に関する前提条件等の確認、意見表明プレスリリースの確認などがある。
    答申内容: 特別委員会は、主にTOBの賛同と応募推奨の是非について取締役会に答申する。対抗提案により答申内容は変わり得る。全ての事例で取締役会は特別委員会の答申内容を尊重していた。


関連用語
特別委員会 #TOB(株式公開買付け) #MBO(マネジメント・バイアウト/Management Buy Out) #公正性担保措置
M&A指針(公正なM&Aの在り方に関する指針) #企業買収における行動指針